
| 二人はとぼとぼと(していたのは正確には一人だけれども)、通りを歩いていた。 なんとか巡礼者は二人になったものの、出発できる人数には程遠い。いまだ見通しは暗かった。 明るい日差しの中、ジェムはひとり重苦しいため息をつく。 「本当にこれからいったいどうしましょう。これじゃあいつまで経っても出発なんて出来ませんよ」
明るい口調で絶望的な憶測を述べるシエロをジェムは慌てていさめる。しかしここに来るまでの自分の苦難を思い返すと、けしてあり得ない事ではないとも思えてきて、ジェムは顔を青ざめた。 「まあ、案外この街のどこかで迷子になっているのかも知れないね。探してみる?」 それはただ呆然と待ってるよりかは大分マシな提案だったが、ジェムは冴えない顔色のまま首を横に振った。 「でもたぶん見つからないと思うんですけど…」 そう提案する彼自身は、金髪という目立つ特徴があったし神官という目撃者もいたから何とか見つける事が出来たが、他の三人は容貌はおろか名前すら分からない。 そんな見ず知らず人間をやみくもに捜し当てようだなんて、それこそ雲を掴むような話だ。 しかしシエロは首を振った。 「そうとも言えないよ。ひとつの大陸から出たことのない人にはあんまり実感はないかもしれないけれど、大陸ごとに人種には結構特徴があるんだ。
「シエロさんみたいに?」 「そう。俺はヴェストリ(西の)大陸出身だからね」 月の光を集めたような髪をひらめかせ、シエロがちらりと笑った。 「だけどこの街みたいにいろいろな人種が入り混じっているような所では、かなり探しにくいと思うんですけれど…?」 現にこうやって通りを歩いているだけでも、今シエロが言った特徴にそのまま当て嵌まるような人間と何人もすれ違っている。 内陸の方ではいざ知らず、こんな大きな港町では他大陸の人間はそれほど珍しくはないのだ。 「そうだね。それが一番の問題だ」 けらけらと笑うシエロに、ジェムはがっくりと肩を落とした。期待した自分が愚かだった。 「でもね、約一名だけなら何とか見つかりそうな気もするんだ」 「それってどういう事ですか?」 シエロは悪戯っぽく笑うと、ぴんと立てた人差し指をくるくると回した。 「噂で耳にしたんだけど、どうやら今回の巡礼には南の大陸代表で『火の民』の子が来るらしいんだ」 「『火の民』、ですか?」 ジェムは首をかしげた。それが一体なんなのだろうか。 北の大陸に昔から住んでいる人々が『地の民』と呼ばれるように、南の大陸に住んでいる人達には『火の民』と言う異名がある、ただそれだけではないのだろうか? 「ジェムは聞いたことないかな? 『火の民』は大昔から変わらぬ暮らしを今でもしていてね、生粋の砂漠の民である彼らはその浅黒い肌に刺青を施しているらしいんだ。全身にだよ? そんな子がこの街にいたらきっと目立つと思わないかい」 「…そうですね」 ジェムは愕然としながらも何とかうなづいた。大陸から離れるどころか、学院の宿舎から出ることすら滅多にない生活を送っていた彼である。そんな人々が日々生活を営んでいる地がこの世にあるということ自体、彼には想像し難かった。 そんな話をしているうちに、気が付くとジェムとシエロは二人が初めて会いまみえた場所まで戻ってきていた。 |