
| 詰め所を追い出されたジェムとシエロは、少し歩いたところでどちらともなく足を止めた。
「困ったね」 「…」 「これじゃあ、他の人たちが来ても出発はできないなぁ」 「…」 「どうしちゃったの、黙りこくっちゃってさ?」 首をかしげるシエロに、ジェムは暗い顔で視線を足元に落とした。 「僕、何も言い返せませんでした…」 自分は早く巡礼の旅を終わらせて学院に戻らなければならない。なのに、そのための仲間一人助けることもできなかった。 ジェムはがっくりと気を落とすが、シエロはけらけらと声を立てて笑った。 「そりゃそうだ。だって彼の言葉は根本からして間違っていたもん」 「へっ?」 ジェムは目を丸くする。 「いくら現行犯逮捕だからって、情状酌量もないなんておかしいよ。彼の言う通り国内で犯罪行為をさせないと言うのが国の権利なら、シェシュバツァル君の言う通り自己防衛だって立派な権利だ。それを認めず自分の権利ばっかり主張するのは、間違っているよ」 にやりと唇を吊り上げて、シエロはピンと指を立てた。 「しかし彼のあれはわざとだね。話をわざと逸らしてうやむやにしたんだ。いやはや見事なもんだよ。あそこまで的外れな話をされちゃったら、言い返すのなんて至難の業だからね」 「じゃあ何であの場で言ってくれなかったんですか!」 ジェムはとうとう顔を真っ赤にしてシエロを怒鳴りつけた。陽気であっけらかんとした彼の口調が、今はかなり腹立たしい。思いがけない迫力に、シエロはだいぶ驚いたようだ。恐る恐るといった様子でジェムに訊ねる。 「もしかして…、怒ってる?」 「怒ってますっ」 ジェムはぐすんと鼻をすすり涙ぐんだ。 「約束したじゃないですか、シェシュバツァルさんと。釈放してもらえるよう掛け合ってみるって。どうするんですか」 「いや、だってさ。あの石頭の御仁を説得するなんて時間がいくらあっても足りなそうだったし。仮にそれがうまくいったとしても、彼一人言いくるめたぐらいでうまく釈放まで話が進む訳でもなさそうだったからね。別な方法を考えた方がよさそうだなぁ〜、と」 慌ててそう言い訳するシエロに、ジェムははぁとため息を吐いた。 それならそうと先に言って欲しかった。 「それじゃあ、一体どうするつもりなんですか?」 半分以上呆れ返りつつも、じっと視線に力を込めて彼を見つめるとシエロはとぼけた仕草で肩をすくめた。 「そうだねえ、いっそ力ずくで無理やり脱獄でもさせてみようか」 「冗談でもやめてください。そんなこと言うのっ」 この人、暴力が苦手だなんて絶対に嘘だ。そう思いながらジェムは頭を抱えた。 「とりあえず神殿の神官さんに相談してみましょう。彼の身元を保証してくれるかもしれませんし」 「そうだね、それが一番いいかも知れないね。ジェム君、君って頭がいいねぇ」 名案だと目を輝かすシエロに投げやりにうなずき、ジェムはもう一度深々とため息を吐いた。 誉められてもぜんぜん嬉しくなかった…。 |