
| 窓の外に目をやると、ちらちらと小雪が舞っていた。 「寒いと思った…」 少年は、はーとかじかんだ手に息を当てる。白く色付いた吐息が彼の指先にほのかなぬくもりを与えた。 ページをめくる音が普段より硬い気がするのは、雪が湿気を吸い取っているからだろうか。誰もいない書庫では紙の擦れる音と、燭台の炎の揺らめく音、そしてペンを走らせるカリカリという音がやけに大きく聞こえた。 インク壷の中にペン先を浸したその時、何の前触れもなく扉が開いた。 「ああ、やっぱりここにいたんだな」 冷たい隙間風と共に室内に飛び込んで来たのは、制服をルーズに着こなした少年だ。シャツのボタンの上二つを外し、裾をだらしなく外に出している。タイは丸めてポケットにでも詰め込んでいるのだろう。しかし不思議と下品な印象はなかった。 「部屋にいないからここだろうと思った。しっかし、寒いなぁ、ここは。ほとんど外と変わらないじゃないか」 そう言って親しげな仕種で隣の席に腰をおろす。そして両手を組んでごしごしと二の腕をこすった。 図書室の横にある書庫は、本棚と机があるだけで暖炉どころか暖房器具すらない。それでもここは少年のお気に入りの場所だった。 「寒いほうが頭がはっきりして効率が上がる…ような気がするんだ」 「…まあ、コートを着てるなら風邪もひかないだろうけどな。あれか。またレポートを書いているのか?」 彼の言葉に少年はうなずいた。 「このあいだの試験、落としちゃったから」 「おいおい、何度目だよ。もしかすると科目全部落としてるんじゃないのか!」 「いや…、まだあと二つ返却残っているし」 「つまりそれ以外は落としたってことだな」 ため息をつき、後から入ってきた方の少年は首を振る。 「おまえとことん本番に弱いのな。レポートだとかなりいい点取れるのに…。だから教授たちもレポート提出で挽回させてくれてるんだろうけどな」 「プレッシャーに弱いのかもね」 「なに人事みたいに言ってんだよ。以前はそうじゃなかったんだろ?」 その言葉に曖昧な微笑みを返し、少年は首をかしげた。 「それで君はいったいどうしたんだい。なんだかぼくを探していたみたいだけど」 「そうだった」 彼はふいと顔をしかめ口篭もる。 「今の話を聞いた後だと、かなり言いづらいな。複雑な心境ってやつだ」 「悪い話かな」 「さあ、分からない。ただ学長がおまえを呼んでいるらしいんだ」 少年の顔がこおりつく。 学長はこの学院の中ではもっとも偉い立場にいる人物だ。そんな人物に呼ばれるとは並大抵のことではない。 「とりあえずすぐに学長室に行ったほうがいいぞ」 級友の言葉に彼はうなずいた。 |